横ネストの解釈

巨大数論において、横ネストとは表記が持ちうる性質である。

筆者は横ネストについて詳しくない。

この記事は筆者の知っている範囲のことを備忘録的にまとめたものであって、鵜呑みにしないでほしい。

 

2種類の解釈

横ネストには大きく分けて2つの解釈がある。

一つは2018年にmrna伝が考案したオリジナルの解釈、もう一つは2022年ころに成立した貫通解釈である。

全く異なる2つの考え方があることを把握しておかないと、いろんな文献を読む際に混乱すると思う。

横ネストの構文解釈

まず、mrna伝が2018年に提唱したオリジナルの横ネストを紹介する。

 

巨大数での順序数表記には、表記の集合Tと単項の集合PTが定められることが多い。

単項とは、+で結合している項の最小の部分である。

 

単項aについて、ψ(a)を展開するとψ(c)になるが、ψ(a+a)を展開するとψ(a+c)にならずにψ(a+c')になるとする。

このとき、aを始点、c'を終了条件という。

 

例えば、ψ(Ω)はψ(ψ(ψ(...)))になるが、ψ(Ω+Ω)はψ(Ω+ψ(ψ(...)))にならずψ(Ω+ψ(Ω+ψ(Ω+...))))になる。

 

また、aとは異なる単項bでψ(a+b)を展開するとψ(a+c)になるとき、bを変化点という。

 

この終了条件を制御することで(つまり、横にネストするタイミングを増やすことで)より大きな順序型を持つ表記をつくることができる。

横ネストの背景

2018年当時、FHLASR内でぐーそん、じぇいそん、mrna伝がψ系表記を開発していた際、ぐーそんが横ネストの原型となるアイデアを発見し、それをmrna伝が命名・定式化した。

当時横ネスト以外にも縦ネスト、斜めネスト、δネスト(定義ずらし)が発見されたが、横ネストが多くの表記にみられる普遍的な性質だったため、横ネストのみが広く知られることになった。

2023年には横ネストを3回取り入れた鳥(tri)ネスト段階配列表記も作られている。

 

貫通解釈

貫通解釈は2022年に成立した横ネストの解釈である。

これは横ネスト段階配列表記のふるまいを過不足なく説明する新しい解釈だが、mrna伝が意図したものではない。

 

まず、ブーフホルツのψはブーフホルツのヒドラに対応することを思い出してほしい。

それと同様に、ψ系表記は自然にラベル付き木構造に対応させることができる。

 

木構造の葉から根への経路を道と呼ぶことにする(この記事のみでの用語法)。

 

貫通解釈では、bad rootは以下の方法で定まっていると解釈する。

  1. ある葉Lへの道に含まれるラベルを根の方から順番に並べる。
  2. 葉のラベルより1小さいラベルを列挙し、それを根とする"小さな木構造"を得る。
  3. ”小さな木構造”を比較して、Lを含む"小さな木構造"より小さいもので最もLに近い木構造を探索する。
  4. 3で得た"小さな木構造"の根をbad rootとする。

末項より小さい要素(赤)を列挙してから、そこから伸びる枝のラベル(青)を比較する

単純な辞書式順序では一致する場合は、その周りの木構造も考慮に入れる

つまり、一度末項より小さな要素を探索して、それをさらに「貫通」する探索がもう一度走ることで強力な探索になっているのである。

貫通解釈の特徴は、非常に数列システム的な発想に近いことである。

 

貫通解釈の背景

2020年ころから、原始数列を改造してΓ0の順序型を持つ数列システムが何度か再発見された。

この方法論の本質となる操作を抽出して、何度でもその操作を繰り返すことができるように一般化したシステムが研究された。

これが横ベクレミシェフ、およびその一般化のmベクレミシェフである。

この研究の過程で、数列の「貫通探索」が発見された。

 

この「貫通」が横ネスト段階配列表記の添え字の探索においても起きているのではないか、というのが横ネストの貫通解釈である。

この解釈は2023/02/23に行われた巨大数勉強会で発表され、広く知られるようになった。

 

(貫通解釈の成立期には、じぇいそんによるζ関数(「ふにゃふにゃぜーた関数」)を用いた解釈との対立もあった。じぇいそんは当時、横ネストを任意自然数回繰り返す方法をζ関数を用いて議論する方法を提案していた。)

 

"段"or"回"

横ネストに関する議論を呼んでいると、「横ネスト2段」という文献と「横ネスト2回」という文献を見かけるかもしれない。

これらは非常に似通っているが、まったく違う思想に立脚している。

 

「横ネスト2段」はオリジナルの解釈に近い考え方で、構文の終了条件が何回変えられているのかに重きを置いている。

 

「横ネスト2回」は貫通解釈に基づいていて、探索中に貫通が何回起きるかに基づいている。

 

ただ、「横ネスト2回」という表現は前者の意味で使われることも多い。

 

「横ネスト2回」の表記と「横ネスト2段」の表記は、(素人目には)同じような挙動をするようにみえる。

 

「人には人の横ネスト」

横ネストは煩雑な展開をまとめる際に非常に重要であり、最近ではハイパー原始ψの解析において重要な役割を果たした。

 

しかし、「横ネストをもっている」という述語は厳密に定義されているが、「表記に横ネストを入れる」という操作は定義されていない。

 

その結果、横ネストに基づく表記は大量にあるが、それらはすべて違う横ネスト観を持っている。

2023年ごろにはあまりに多くの横ネストに関する予想が乱立し、「人には人の横ネスト」という標語が生まれたくらいである。

 

横ネストは非常に重要な概念でありながら研究が停滞しており、これらをまとめ上げるアイデアが現れるのが期待されている。

 

 

解釈の不一致は表解析などにおいて重大な問題を引き起こすことがある。

つまり、どの展開が自明で、どの展開が非自明なのかが解釈によって異なるのである。

 

上に述べた解釈の不一致は様々な議論を巻き起こしたが、議論は決着せず、有識者は公の場で横ネストについて言及するのを避けるようになってしまった。

その結果、横ネストについて何も知らない筆者がこの記事を書くに至ったわけである。

横ネストの議論は私には難しすぎるので、有識者にはぜひまとめ記事を書いてほしい。

 

おまけ:より詳細な横ネストの背景

巨大数論は2000年前後にインターネット上で生まれた分野であって、当初はクヌースの矢印表記などに基づく表記が考案されていた。

 

2010年ごろ?以降に、Buchholzのψを利用しようという動きが現れ、2016年ごろにはそれを改良してより強力な表記を得ようという動きが現れた。

このような動きはEBOの定式化など一定の成功をおさめたが、多くの研究は正しい数学基礎論の知識を伴っておらず、ずさんなものだった。

彼らは証明論的な背景を理解しておらず、順序数と順序数表記と基本列の区別がついていなかった。

特に2018年に考案されたUsername's OCF(UNOCF:ユノシフ)がその代表例で、厳密な定義がなされずに強い主張が飛び交ったため、議論全体がほとんど意味をなさないものになってしまった。

このような流れは日本の巨大数論にも波及し、実際東方巨大数2ではUNOCFが解析に使われている。

 

2018年に、日本の巨大数論では全く別の変化が起きていた。

それは、TwitterとDiscordで巨大数の議論がされ始めたことである。

Twitterでの議論を先導したうちの一人は叢武で、彼は巨大数サークルFHLASRを作って巨大数の研究を始めた。

この研究の中心となったのがぐーそん、じぇいそん、mrna伝、甘露東風、ゆきと等である。

ぐーそんがGooson's Array Notation(GAN)を作ったのを皮切りに、順序数表記への独自の研究がはじめられた。

 

同時期にp進大好きbotが巨大数を始めた。

(彼はbotを自称しているが、おそらくどこかの大学の数学教員である。)

彼は様々な素晴らしい巨大数を残したが、巨大数論に蔓延する数学的な間違いをひとつずつ丁寧に訂正するという偉大な活動も行った。

 

(p進氏による鋭い指摘は「p進パンチ」として、恐れられつつも、ありがたがられていた。)

(同時期に数学者の木原貴行氏が計算不可能関数に関する注意喚起を行った。)

 

このような流れの中で、FHLASRではより正確な議論を目指しつつも、新しい巨大数を作る野心的な研究が行われ、Y数列、ζ関数などの革新的な表記が数多く生まれた。

 

2018年にFHLASR内で行われた「最強決定戦」というイベントにおいて、誰が作った関数が一番大きいかという勝負が行われた。

この中で、Y数列vsζ関数などの解析が行われて研究が深化し、ぐーそんがそれまでに考案された多くの表記に普遍的に現れる構造として、横ネストの源流となるアイデアを発見した。

しばらくしてぐーそんは巨大数の研究を離れてしまったが、この研究を受け継いで命名・定式化したのがmrna伝である。